江戸の知性

江戸時代というと封建制のもと、幕府の圧制に苦しめられていたという印象をもたれる向きも多いかもしれないが、人々は結構楽しく暮らしていたようである。

「江戸の媚薬術」から

この本は江戸時代に売買されていた精力剤(勃起を助ける薬)などに関する研究書である。

 

その中で狂歌が紹介されている。

「倅は補薬に立ったわェたけり丸」

という句がある。

「たけり丸」というのは補腎薬のことである。江戸期には精液は腎臓から排出されるものと信じられており、使いすぎると枯渇すると考えられていた。

役立たずになった「倅(自身のペニスのこと)」に補薬(精力剤)として「たけり丸」を服用したら、めでたく勃起するようになったという意味である。

しかし、これだけではこの句の本当の意味は分からない。

歌舞伎に「菅原伝授手習鑑」という演目がある。その中に有名な

「梅は飛び、桜はかるる世の中に、何とて松のつれなかるらん。

女房悦べ、倅はお役に立ったぞと、聞くよりわっとせき上げて、前後不覚に取り乱す」

というのがある。

この台詞を知っている人は、狂歌の「補薬に立つ」が「お役に立つ」の語呂あわせで、隠された「女房悦べ」という言葉をすぐに思い出すわけである。

つまり、精力剤によって男性自身が屹立するようになったので、女房よ悦びなさいということだと察するのである。

江戸の多くの人が「菅原伝授手習鑑」見知っていたわけで、彼等の教養の高さに驚くばかりである。