「福島第一原発事故 7つの謎」から

NHKスペシャルメルトダウン」取材班による調査報道である。

この本で感じるの原発の課題は以下の点。

(1)全電源喪失を想定していなかった

・電動弁や空気弁は電源を必要とするが、電源が失われたときにこれらを操作する術がなくなってしまった。マニュアルもなかったし、外部のバックアップ電源もなかった。

・ポンプが動かなければ外部からの注水に頼るしかないが、配管ルートが確保されていなかった。このため消防車による注水はバイバスや停止中の低圧復水ポンプの軸封から復水器にリークしていた

・1号機や3号機の原子炉の圧力を低減するためのベントも、途中に電動弁や空気弁があってルーティングに困難を極め、決死隊が手で開けたり、空気ボンベをつないだりして対応しなければならなかった

-対策として補助電源装置を高所に配置するなどしているが、これは津波対策であり、テロで電源が狙われた場合の対策になっていない。全電源喪失でも安全に停止し、冷温を維持できる仕組みが必要だろう。

 

(2)原子力発電所は安全であると喧伝してしまったため自縄自縛になってしまった。

・緊急時の訓練を定期的に行っていなかった

そのためIC(Reactor Core Isolation Cooling Condenser、非常用復水器)が動いているかどうかを評価できなかった。ICを動作させると水蒸気が外部に噴出し、周辺住民に不安を与えるので、やっていなかったようである。このため所員はIC動作を確認できなかった

・全電源喪失時の対応マニュアルがなかった

そういうものを作ると安全性が疑われるということを懸念したのではないか

 

(3)試験方法の見直し

・5号機は運転はしていなかったが、試験中であり危険な状態だった

各種試験ではインターロックを解除したり、通常の運転とは異なる操作をしていることが多い。東電では火力発電所で試験中に不適切な運転をして、運転員が死亡し、ボイラを全損するという事故がかってあった。原発でも各種試験は必要であるが、試験中に全電源喪失のような過酷事故が起こった場合、安全に安定状態に戻すことが必要となる。通常、試運転や試験中に地震津波、テロが発生することなど想定していないが、これからはそうした対応が必要となろう。

 

(4)緊急措置の成否の確認

電源喪失メルトダウンなどの事象が起こった後、いろいろな対応をしたが、1号機のICが動作したかなど、計測データがないためうまくいったのかどうか確認できていない項目が多い。確認したくても放射線量が高く、人間が確認にいけない状況である。

(5)緊急時の指揮命令系統

東電の事故対策に疑念を抱いたの菅首相(当時)は、原子力には素人の海江田経産相(当時)を東電本店に常駐さ時期に当たらせた。海江田が指示した自衛隊ヘリによる海水投下、機動隊や自衛隊による放水は全く効果がなく、電源復旧を遅らせ、この間に大量の放射性物質を飛散させてしまった。一方、4号機の燃料プールや2号機の格納容器が爆発すれば、半径170キロメートル圏内の3500万人がチェルノブイリ級の被爆をすることになり速やかに非難する必要に迫られる。これは東電の手に余る対応となる。どこまでが電力会社の所掌で、どこからが国が乗り出す事象にすべきかは事前にシミュレーションしておくことが必要だろう。

こうした状況で、原発再稼動を認めるののは妥当なのだろうか。

 

原発再稼動の審査が行われているが、こうした点が考慮されているのか、はなはだ心もとない。